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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)7863号 判決 1973年4月26日

原告(反訴被告) 陳邦畿

右訴訟代理人弁護士 小出耀星

右訴訟復代理人弁護士 佐伯弘

被告(反訴原告) 鈴木登代子

被告 鈴木三郎

<ほか一五名>

右被告(鈴木登代子については反訴原告)一七名訴訟代理人弁護士 秋根久太

主文

一  原告に対し

(一)  被告鈴木登代子は別紙目録(三)記載の建物を収去して同目録(一)記載の土地の北西部一六五・四四平方メートル(位置関係は別紙図面(一)の斜線部分のとおり)を明渡し、かつ金一七一万円および内金五九万七、〇〇〇円については昭和四四年一二月二九日以降内金一一一万三、〇〇〇円については昭和四八年二月一日以降各支払ずみまで年五分の割合による金員、ならびに昭和四八年二月一日以降右明渡ずみまで一か月金三万円の割合による金員を支払え。

(二)  被告鈴木登代子、同鈴木三郎、同鈴木とめ、同柯は別紙目録(二)記載の建物を明渡し、かつ被告鈴木登代子、同鈴木三郎、同鈴木とめは連帯して(後記のとおり一部は被告柯と連帯して)金五七二万四、〇〇〇円および内金一八〇万七、〇〇〇円については昭和四四年一二月二九日以降、内金三九一万七、〇〇〇円については昭和四八年二月一日以降、各支払ずみまで年五分の割合による金員、被告柯は右被告三名と連帯して右金額のうち金四〇三万九、〇〇〇円および内金五七万三、〇〇〇円については昭和四五年五月二四日以降内金三四六万六、〇〇〇円については昭和四八年二月一日以降各支払ずまで年五分の割合による金員、ならびに右被告らは連帯して昭和四八年二月一日以降右明渡ずみまで一か月金一一万六、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

(三)  被告泉は別紙目録(三)記載の建物の一階一号室、同中山吉男、同中山栄子は同建物の一階二号室、同石渡法夫、同石渡みき子は同建物の一階三号室、同織田豊、同織田昌子は同建物の一階五号室、同被告吉原は同建物の二階六号室、同小林きの、同小林陽子、同小林俊一は同建物の二階七号室、同秋元は同建物の二階八号室、同石津は同建物の二階一〇号室(右各室の位置関係は別紙図面(二)のとおり)から各退去せよ。

二  原告のその余の請求および反訴原告の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを五分し、その一を原告、その三を被告鈴木登代子(反訴原告)、その余をその他の被告らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判および当事者の主張

別紙記載のとおり。

二  証拠≪省略≫

理由

一  本件土地および建物(二)はもと訴外陳継珠の所有であったこと、同人は昭和四三年二月八日死亡したこと、訴外陳昆山は陳継珠の実父であり、昭和四三年五月二五日死亡したこと、陳継珠、陳昆山の国籍はいずれも当時の中華民国であったこと、被告鈴木登代子は昭和四三年五月一日以降本件土地のうち別紙図面(一)の斜線部分一六五・四四平方メートルを占有しその地上に建物(三)を建築所有していること、右建物の各部屋は本訴における請求の趣旨第一項(三)の1ないし8記載のとおり各被告がそれぞれ被告鈴木登代子から賃借して居住占有していること、被告鈴木登代子、鈴木三郎、鈴木とめは昭和四三年五月一日以降被告柯は昭和四四年一一月一八日以降建物(二)に居住してこれを占有していること、被告鈴木三郎は建物(二)につき本訴請求の趣旨第二項記載の、原告は本件土地および建物(二)につき反訴請求の趣旨第一項記載の各登記を経由していること、以上の事実については当事者間に争いがない。

二  本件土地および建物(二)の所有権の帰属について判断するに、当時の中華民国の国籍を有する陳継珠が死亡したことによって、我が法例第二五条の規定するところに従い、同人の死亡に伴う相続には中華民国民法が適用されることとなる。そして同国民法第一一三八条によれば、配偶者は常に相続人であり、他に第一順位として直系血族卑属、第二順位として父母が相続人となるところ(第三、第四順位省略)、被相続人陳継珠には直系血族卑属がないことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば相続開始当時陳継珠の母は既に死亡していたことが明らかであるから、もし陳継珠に配偶者があればその配偶者および陳継珠の父たる陳昆山の両名が相続人となり、もし陳継珠に配偶者がなければ陳昆山ただ一人が相続人となるわけである。

ところで、被相続人と配偶関係にあることを主張する者がある場合に、その配偶関係の存否は相続問題とは別個の先決問題たる法律問題であるから、婚姻の準拠法によってこれを決定すべきものである。そして法例第一三条によれば婚姻の方式は挙行地法に従うべきものとされているから、日本国内において挙行される婚姻については、我が民法およびその附属法たる戸籍法の定めるところによってその方式をふまないかぎり、その婚姻は効力を有しないものといわなければならない。

被告らは、被告鈴木登代子が昭和三五年一〇月二八日渋谷区のキリスト教会で婚姻の挙式を了し、昭和四二年一二月五日付で中華民国留日東京華僑総会を経て婚姻届の手続をしているうちに陳継珠が死亡したのであるから、同人の配偶者は鈴木登代子というべきであると主張する。しかしながら、右被告らの主張する婚姻は日本国内で挙行されたものであり、そして我が民法第七三九条に基づく婚姻の届出をしていないことは当事者間に争いがないのであるから、陳継珠と被告鈴木登代子との間にはいまだ有効に婚姻が成立していないものといわなければならない。右両名の挙式に二人以上の証人があり中華民国民法第九八二条所定の婚姻成立の要件をみたしていても、その中華民国内における効力はともかくとして、当裁判所としては右両名間に婚姻が成立したものとすることはできない。

従って、本件土地および建物(二)の所有者陳継珠の死亡により、その父陳昆山が唯一の相続人としてこれを承継取得したものというべきである。

次に、陳昆山の死亡による相続関係を考えるに、≪証拠省略≫によれば、原告は昭和四三年(中華民国五七年)五月一八日陳昆山と養子縁組をしてその養子となったこと、陳昆山には死亡当時原告以外の直系卑属および配偶者がなかったことを認めることができる。被告らは右縁組当時陳昆山が意思能力を有しなかったと主張するが、≪証拠省略≫によっても被告ら主張事実を認めるに足りず、他にこれを認むべき証拠はない。

そうすると、原告は中華民国民法第一一三八条、第一一四二条により陳昆山の相続人となるから、陳昆山の死亡により本件土地および建物(二)を同人から相続によって取得したこととなる。

被告らは他に本件土地および建物(二)に対する占有権限を主張立証しないから各自の占有の態様と範囲に従い、原告の所有権に基づく妨害排除請求に応じなければならない。

三  本件土地のうち被告鈴木登代子が占有している別紙図面(一)の斜線部分一六五・四四平方メートルについての賃料が昭和四三年五月一日現在一か月当り金三万円に相当することについては当事者間に争いがないから、右占有部分に対する昭和四三年五月一日以降昭和四八年一月末日までの損害金は金一七一万円であり、右のうち本訴状送達の日であること記録上明らかな昭和四四年一二月二八日までの損害金は金五九万七、〇〇〇円であり、その余の分は金一一一万三、〇〇〇円である(いずれも一、〇〇〇円未満四捨五入)。鑑定の結果によれば、建物(二)についての一か月当りの賃料は昭和四三年五月一日現在で金九万円、昭和四四年五月一日現在で金九万二、〇〇〇円、昭和四五年五月一日現在で金一〇万円、昭和四六年五月一日現在で金一〇万八、〇〇〇円、昭和四七年五月一日現在で金一一万六、〇〇〇円(いずれも一、〇〇〇円未満切捨)であることが認められるから、右建物に対する占有による昭和四三年五月一日以降被告鈴木登代子、鈴木三郎、鈴木とめに対する本件訴状送達の日であることが記録上明らかな昭和四四年一二月二八日までの損害金は金一八〇万七、〇〇〇円であり、同月二九日以降昭和四八年一月末日までの損害金は金三九一万七、〇〇〇円である(いずれも一、〇〇〇未満四捨五入)。また同じく昭和四四年一一月一八日以降被告柯に対する本件訴状送達の日であることが記録上明らかな昭和四五年五月二三日までの損害金は金五七万三、〇〇〇円であり(一、〇〇〇円未満切捨)、同月二四日以降昭和四八年一月末日までの損害金は金三四六万六、〇〇〇円である(一、〇〇〇円未満四捨五入)。

四  陳継珠は訴外戸張章に対し昭和三四年九月八日準消費貸借契約に基く債務一六〇万円を負担し、その担保として建物(二)に対して抵当権を設定すると同時に右債務を弁済期に支払わないときは同建物を代物弁済となしうる旨約し、右約旨に基いて東京法務局大森出張所昭和三四年九月一八日受付の第三〇、一六三号抵当権設定登記および第三〇、一六四号所有権移転請求権保全仮登記を経由したことについては当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、陳継珠は昭和三四年九月八日右債務の元利金を支払うため約束手形四六枚(額面合計金一八四万円、支払期日昭和三四年九月三〇日ないし昭和三八年一〇月三一日)を振出したが、これを支払うことができなかったので、被告鈴木登代子の父である被告鈴木三郎は、陳継珠の委託を受けて右債務金一八四万円を昭和三八年四月から昭和三九年一〇月までの間に数回に分けて弁済し、この結果生じた陳継珠に対する右金額の求償金を担保するため昭和三九年一〇月一日戸張から右抵当権および所有権移転請求権の譲渡を受け、昭和四三年九月一八日その旨の付記登記である本訴請求の趣旨二記載の各登記を了したことを認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

従って右各登記は実体に付合する適法な登記であるから、原告においてはその抹消を求めることができない。

五  反訴請求は反訴原告と陳継珠との婚姻を前提とするところ、前記のとおり右婚姻の成立を認めることができないのであるから、反訴請求は理由がない。

六  以上によれば、原告の本訴請求は、被告鈴木登代子に対し建物(三)の収去と本件土地のうちその敷地たる一六五・四四平方メートルの明渡ならびに右土地の占有による損害金として昭和四三年五月一日以降昭和四八年一月末日までの分たる金一七一万円と右金額のうち昭和四四年一二月二八日までの分たる金五九万七、〇〇〇円については同月二九日以降その余金一一一万三、〇〇〇円については昭和四八年二月一日以降各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金および同日以降右明渡ずみまで月金三万円の割合による金員の支払、被告鈴木登代子、鈴木三郎、鈴木とめ、柯に対し建物(二)の明渡ならびに右建物の占有による損害金として被告鈴木登代子、鈴木三郎、鈴木とめに対しては昭和四三年五月一日以降昭和四八年一月末日までの分たる金五七二万四、〇〇〇円と右金額のうち昭和四四年一二月二八日までの分たる金一八〇万七、〇〇〇円については同月二九日以降その余の金三九一万七、〇〇〇円については昭和四八年二月一日以降各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、被告柯に対しては昭和四四年一一月一八日以降昭和四八年一月末日までの分たる金四〇三万九、〇〇〇円と右金額のうち昭和四五年五月二三日までの分たる金五七万三、〇〇〇円については同月二四日以降その余の金三四六万六、〇〇〇円については昭和四八年二月一日以降各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害および右被告らに対し昭和四八年二月一日以降右明渡ずみまで月金一一万六、〇〇〇円の割合による金員の連帯支払、その余の被告らに対し建物(三)の各占有部分からの退去をそれぞれ求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求部分および反訴原告の反訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九三条、第九二条、第八九条を適用し、仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 荒川昂 山川悦男)

<以下省略>

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